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富士フイルムのデザインとITの開発拠点「FUJIFILM Creative Village」の
空間づくりと、その思想に寄り添うブラインド

他分野にまたがりクリエイティビティーを発揮するスタジオ「FUJIFILM Creative Village」にある、デザインスタジオ「CLAY」の執務スペース。大きな窓に向かってデスクが並び、外の景色や光を自在に採り込みながら、空間に調和するウインドートリートメントが求められた

社内外のコミュニケーションを生む場所

「CLAY」の1、2階の吹き抜け。デスクでデザイン検討するデザイナーの様子や、別のフロアでディスカッションする雰囲気が、緩やかに感じられる空間づくりを目指した

ワークスタイルの多様化と共に、働く環境においても、働く人の快適性だけではなく、そこで生まれるコミュニケーションや創造性を刺激するような空間づくりが求められている。
2023年5月、富士フイルムが、東京・南青山にデザインとITの開発拠点となる「FUJIFILM Creative Village(フジフイルム クリエイティブ ビレッジ)」を開設した。富士フイルムは、写真や光学、医療機器から、化粧品、再生医療バイオテクノロジーまで幅広い分野を手掛けているが、同施設は富士フイルムのデザイナーやITエンジニアを集結し、新しいイノベーションを生む場として計画されている。

敷地内には、デザイン開発拠点の「CLAY(クレイ)」と、IT開発拠点「ITs(イッツ)」の2棟が並ぶ。それぞれの建物は、建築、プロダクトデザイン、アートに革新を起こし、モダンデザインの礎を築いたバウハウスや、同時代の建築に着想を得て、シンプルかつソリッドな印象のコンクリート造りで構成される。外観や躯体は存在感を感じさせる一方、日が差し込む南面のファサードには、ガラスによるダブルスキンを取り入れ、空調や照明の負荷軽減を図りながら、軽やかで開放的な雰囲気も感じさせている。

東京・南青山に新築で計画された同施設の外観。大きなガラス張りによるダブルスキンのファサードは、空調や照明の負荷軽減にも配慮している

同施設では、全体のコンセプトや建築、空間デザインまで、同社のデザイナーが中心となって計画した。デザインセンター プロダクトデザイングループ デザインディレクター の千田豊さんは、計画の経緯について次のように語る。
「当社の以前の主力事業は写真フィルムでしたが、デジタル化の進展により事業が多様化し、デザインセンターもさまざまな専門性を持ったデザイナーが増えてきました。「CLAY」は、このような社内デザイナーがグループや自分の専門分野を超えてクリエイティビティを発揮し、刺激を与え合えるようなワークスベースを目指しました。」

「CLAY」とは、もともと2017年に東京・西麻布に「CLAY 1」と2021年に「CLAY 2」として運営されてきたデザイン開発拠点で、社内の事業部、同社の研究所、そして社外とのつながりを生むためにスタートしているという。今回の竣工した南青山の新しい「CLAY」でも、デザインスタジオとして集中できる空間と、交流ができる場が設けられている。
天井高5mの開放的な1階フロア、大きな吹き抜けや渡り廊下を有する2階フロアといった執務スペースでは、壁側にデスクが配置され、空間にゆとりがありつつも、目の前の仕事に集中して取り組めるようなレイアウトが特徴だ。

同施設の全体のデザイン開発に携わった。富士フイルム デザインセンター プロダクトデザイングループ デザインディレクターの千田豊さん(写真左)と、同チーフデザイナーの兵藤岳郎さん

千田さんと共に建物のデザインに携わったチーフデザイナーの兵藤岳郎さんは、「デスクの幅と奥行きを広くとり、PC作業以外にもスケッチなどさまざまな作業ができるよう考慮しています。また、中央の吹き抜けを始め、色々な場所に“余白”のような空間を設け、ただ仕事をする場所ではなく、デザイナーが自らの発想で使いこなしていく空間づくりを目指しました」と話す。

1階の吹き抜け中央には、ミーティングスペースが設けられている。周囲の窓から外光が入り、空間はコンクリートやモノトーンの仕上げでありながら、明るく開放的な印象

デスクスペースでは、デジタルカメラや医療機器、化粧品といったグループのデザイナーが席を並べ、吹き抜けではさまざまなミーティングやディスカッションが行われる雰囲気を感じられるなど、スタジオにいるだけで新しいアイデアや刺激に出会えるような場が広がっている。この他にも、3Dプリンターなどの工作機器を揃えたプロトタイプ製作室、ディスカッションスペース、デザイナーがお勧めの図書を展示するライブラリーなどが点在する。

空間に溶け込み、魅力的な表情を生むブラインド

同施設で導入されたのは、ニチベイの「ベネシャンブラインド(アルミよこ型ブラインド)」。50㎜スラット(はね)のカラーは特注色で仕立てた

自社のデザインスタジオを、自社のデザイナーたちでつくり上げたが故に、その空間づくりやディテールにはこだわりが詰まっている。
「自分たちが働きたい場所であると同時に、社外からさまざまなクリエイターやビジネスパートナーが訪れる場所として、機能性と共に、デザインやディテールのつくり込みにも注力しています。特に、建築の特徴である大きな窓とその周辺のデザインは、内外の空間の印象を大きく左右するものだったため、時間をかけて計画しました」(兵藤さん)
天井高いっぱいに取られた窓からは、一本ずつ自分たちで選んだ植栽の緑の景観や外光を採り込み、開放的な印象をもたらす一方、特に南面のファサードでは、日射のコントロールが課題であったという。

コンクリートや金属の素材が多用された空間に調和する、アルミ素材の質感を生かしたスラットのブラインドが求められた

そして、この大開口窓に採用されたのがニチベイの特注ブラインドだ。今回導入されたスラットは、アルミの素材感が特徴的な遮熱メタリック・ピュアシルバー。既製品ではスラットが25㎜、35㎜だが、特注で50㎜の幅にしている。
「空間全体がコンクリートやスチールを中心に構成されているため、ブラインドもそのトーンに合わせたものを選びたかった。国内外のさまざまなメーカーのブラインドを比べ、探していく中で、ニチベイさんのアルミの表情を生かしたものに出会いました。他のメーカーの製品にも、金属調で近しい印象のものはありましたが、ニチベイを採用した決め手は、私たちのデザインのこだわりへの反応と対応力でした」と兵藤さん。

「最近のオフィスのブラインドは、幅が細く、シャープなものが多い印象ですが、この場所はクリエイティブなスタジオとして天井が高く、窓や空間そのもののスケールが大きいため、スラット幅が広く存在感があるブラインドがマッチすると考えていました。最初に特注の件を要望した時に、すぐに『やってみます』と応えてくれたのも印象的でした。私たち富士フイルムの製品の多くは、お客様や世の中のニーズ、新しいテクノロジーなど、さまざまな要素を汲み取りながら、チャレンジしていくものづくりの精神から生まれています。効率を考えて、すぐに無理だと諦めず、なんとか工夫してみようというマインドは、お互いに通じるものだったと感じます」(千田さん)

導入されたブラインドは、高さ約5m、幅1.8mで、RFリモコンによって昇降とスラットの回転が行われる。執務スペースのデスクが窓側を向いているため、日射の強弱に合わせて細かくコントロールできることも導入のポイントだったという。
「室内では、照明のブラケットや配管、手すり、サインなど細部も妥協せずにデザインしているので、ブラインドボックスの設えや配線計画にも協力してもらえたのがよかったですね。また、外の植栽にもこだわっているので、それらが見えるようにブラインドの高さや角度をさまざまに調整していると、壁や床に美しいブラインドの陰影が浮かんだり、スラットに反射した光が室内の奥まで届いたりして、明るい雰囲気を生んでくれます。ブラインドを導入したことによって、思いもよらなかった魅力的な空間が広がっています」(兵藤さん)

スラット幅は25㎜と35㎜が標準仕様ではあったが、大きな空間のスケールにあわせて、50㎜幅で特注した

また、千田さんは、「今回、このブラインドを始め、私たちが求めるデザインに応えてくれる仕上げや建材を導入できたことで、普段、製品の小さなパーツからこだわって設計しているようなイメージで空間が立ち上がっていきました。この空間に込めたデザインの意思が、ここで働くデザイナーを始め、多くの人の新しいクリエイティブを刺激していくことに期待しています」と話す。

ニチベイのブラインドの品質に加え、そこにかける思いや対応力が、空間に新たな付加価値をもたらした事例として、ぜひ注目してほしい。

撮影/大崎晶子
この記事は、商店建築社が運営するウェブメディアid+(インテリア デザイン プラス)に掲載された原稿を再構成したものです。