学校の窓まわりの在り方を現代の視点で見つめなおす、
機能性と美しさをもたらすブラインド
山形県立寒河江工業高等学校の図書室。2層吹き抜けの開放的な空間にバーチカルブラインドが調和する
2024年4月、新たに開設された山形県立寒河江工業高等学校の新校舎。その教室や図書室といった空間の窓まわりには「ニチベイ」のブラインドが採用されている。同校の設計を手掛けた羽田設計事務所の代表・水戸部裕行さんに、プロジェクトの経緯と、ブラインドを採用した理由、学校建築における窓まわりのデザインについて話を聞いた。
羽田設計事務所
水戸部 裕行(Hiroyuki Mitobe)
空間の用途や環境を考慮した教室の窓まわり
生徒や教師の動線にも配慮した2階建ての校舎は、高い建物の少ない周辺の景観にも調和する
今回の山形県立寒河江工業高等学校の計画は、第一期としてもともとグラウンドであった場所に校舎や体育館を新築し、第二期として旧校舎の解体や新グラウンドの整備工事を行なうプロジェクトです。
新校舎は、全体で約12000㎡の床面積に対して生徒数は360人程と比較的広いですが、工業高校であるため通常の教室の他にさまざまな実習室が必要になります。また教室を移動する場面も多いので、生徒や先生たちの移動のしやすさなども考慮して、2階建てで一体感のある動線のプランとしました。低層にしたことで、周辺の街並みや近隣の山々を望む景観にも調和しています。校舎棟は鉄筋コンクリート造の壁式構造とし、一部にボイドスラブを使用することで、基本的に梁や柱がほとんど見えないすっきりとした内部空間になっています。
壁式構造でほとんどの場所で梁や柱が見えないつくり。校内には通常の教室の他、実習室などさまざまな用途の空間が設けられている
また、この校舎に限らず、私たちが設計に携わらせていただく学校建築の特徴として、南面の開口にこだわらない教室配置があります。学校建築では、昔から南の方角に窓を設けることが正しいと思われている傾向がありますが、これは、明治時代に部屋の奥まで採光することを目的に南向きの計画を重視していた名残です。明確な根拠もないまま、未だにそれを妄信的に取り入れている事例もあります。現代では学校も照明や空調設備が充実し、気候によっては外光が長時間入ることによるデメリットもあるため、その立地の特性や空間の用途に合わせて設計をすることが重要だと考えます。
最適な光をコントロールし、快適性を高めるためのブラインド
実習室によっては遮光カーテンを併用する。窓まわりに何を設置するのか設計段階で考慮することにより、最終的な仕上がりは格段に向上する
この建物は、敷地形状に合わせて、南北方向に長く伸びているため、当然ながら全ての部屋が南向きではありません。東西に開口部のある教室も多く、場所によって陽の入り方は異なります。そのため、単純に開閉をするだけでなく、採り込む光をコントロールできるブラインドの設置が最適でした。これまで私たちが設計した学校でもブラインドを多く採用していて、特に、信頼性が高く機種バリエーションが豊富なニチベイのブラインドをよく使用しています。
まず、通常の教室や実習室では、アルミよこ型ブラインド「ユニコンモア25」を採用しました。天井の高さは約2700㎜で、教室の形状から窓は水平方向に長くなるため、よこ型ブラインドが空間に調和します。また、時間帯に応じて外光の入り具合を無段階に調整できるブラインドならではの機能と、1本のループしたコードで昇降とスラット(ブラインドのはね)を回転できるシンプルな操作性もメリットです。
さらによこ型ブラインドは、スラットに光を反射させ部屋の奥の天井面を照らすこともできます。直射日光は遮りつつ、自然光を積極的に利用することにより、照明コストの削減効果も期待できます。
開放的な空間であると同時に西日が入り込む図書室。利用者の快適性確保と蔵書のダメージ対策として、バーチカルブラインドを設置
一方、2層吹き抜けの図書室では、バーチカルブラインド「ソーラーV」を採用しました。この空間は、全面ガラス張りの開放的な空間で、内外のつながりを感じやすくする上でも、バーチカルブラインドが好適でした。西日が入る空間なので、陽の移ろいに応じて細やかに調光できることも重要でした。たてに伸びるルーバー(バーチカルブラインドのはね)は、空間の高さを強調する視覚的な効果もあります。天井には、木造の三角形グリッドが見えていて、その存在感を引き立てながら、この開放的な空間に調和しています。この建物のハイライトでもある天井のグリッドは、地元企業シェルター社の木質構造部材を使用しています。同社の会長がここ寒河江工業高校の出身という縁もあり、プロジェクトに参画いただきました。
進化する学校空間の自由度に寄り添うブラインドの可能性
アルミよこ型ブラインド「ユニコンモア25」のスラット。昇降コード穴の両端に補強のリブ加工を施した「タフスラット」を採用
規則正しく連なるバーチカルブラインドのルーバーが天井高を強調。この建築のハイライトである天井面の木質構造物へ視線を誘導する
これまで日本の学校では、先述の”南面信仰”とも言える考えから、外光を多く採り入れることを目的に、すべての教室の窓を大きくする傾向にありました。しかし、陽射しが入りすぎることで、室温を始めとする室内環境をコントロールすることが大変になるケースも少なくありません。また、近年、学校での学び方も変化していて、一つの黒板に向かい続ける授業ばかりではなくなってくるでしょう。設計をする側が、そのことを理解して、空間の用途や外部環境との関係性を踏まえた、適切な窓まわりのデザインをしていく必要がある。その視点においても、あらゆる場面で最適に光をコントロールし、室内の快適性を高めることができるブラインドは、これからの新しい学校建築づくりに大きな力を発揮してくれると期待しています。
撮影/大崎晶子
この記事は、商店建築社が運営するウェブメディアid+(インテリア デザイン プラス)に掲載された原稿を再構成したものです。