
東山の奥座敷ならではの佇たたずまいを演出する
ロールスクリーンが醸す陰影美と“幽玄”の概念

日本の伝統美とナチュラルモダンを融合させた客室「バンヤンONSEN リトリート・キング」。能舞台と竹林を臨む窓の障子とサッシの間には、遮光生地の電動ロールスクリーンを設置
京都を代表する観光地の東山エリア、清水寺にほど近い高台の霊山地区に、2024年8月、「バンヤンツリー・東山 京都」が開業した。
ホテル全体のデザインコンセプトは、「幽玄」。建築家の隈研吾氏によるデザイン監修で、能の芸術的な美しさと「幽玄」の概念にインスパイアされた、魅惑的な隠れ家である。
ヒノキなど天然木を多用した見事な大庇のファサードを抜けると、ふわりと木の東山・霊山地区ならではの香りに包まれる。木の温もりを感じるロビーへと歩みを進めると、開放感ある吹き抜けの天井、大きくとられた窓の先には日本庭園が美しい。木や石、ガラスなど天然素材で造られ、さまざまなアートが飾られた空間のソファに身をゆだねたら、すっかりくつろいでいるのに気付いた。

白木がいくえにも重なった庇が印象的なエントランス。ロビーでは、ほのかな木の香りと温もりがゲストを迎える

さまざまなアートで飾られたロビーの窓からは、季節を感じる植栽が植えられた水盤のある庭を眺められる。ベールの様なシースルー生地のロールスクリーンは、景色を遮ることなく陽射しを和らげる

雄大な自然の景色に囲まれながら静謐な空間で過ごすひととき。日常を忘れ心身ともにリフレッシュ
客室は全52室。インテリアデザイナー・橋本夕紀夫氏が手掛け、「幽玄」をベースに世阿弥による能楽論「風姿花伝」にある、「秘すれば花」をテーマにデザインされている。中でも、ホテル最上級カテゴリの「バンヤン ONSENリトリート」は、1室のみのサンクチュアリだ。
室内へと足を踏み入れると、リビングエリアは窓が広く取られた明るい空間。窓辺へと進み、障子を開けると、まるで手が届きそうなほど間近に能舞台を臨む。窓辺にはデイベッドや小上りが配され、能舞台とその先にある見事な竹林からなる借景を飽きることなく眺めて過ごせる。

掘り座卓の窓から能舞台を間近に臨む。能舞台と背後の竹林のコントラストが美しい

客室にはヒバ材の浴槽を備え、大浴場に加え、ONSENカテゴリーの客室では、敷地内から湧き出る天然温泉を楽しめる。入浴時は電動ロールスクリーンがプライバシーをしっかりと確保
加えて大きな魅力は、かつてこの地にあった「ホテルりょうぜん」からの遺産、天然温泉。大浴場に加え、ONSENカテゴリーの客室では、大きなヒバの浴槽に温泉を満たし、日中は窓の外の自然との一体感を、夜は落ち着いた雰囲気の中で存分に湯あみを楽しむことができる。
日暮れとともに、遮光ロールスクリーンを降ろし障子を閉めると、室内は畳や和紙、金箔など日本の伝統的な素材と、ナチュラルモダンがうまく融合した、安らかな眠りを誘う空間となる。
翌朝は、横たわったまま、ナイトパネルのスイッチを入れるとロールスクリーンが上がり、障子越しの優しい光に包まれる。障子を開ければ、朝の陽ざしを受けた能舞台と緑の美しいコントラストが、より鮮明に目に映る。

障子と「ガイドレールタイプ」のロールスクリーンは全室共通。ロールスクリーンの生地は裏面にアクリルコーティングを施した「フォルゼBC」、遮光等級1級A++で高い遮光性能を誇る

電動ロールスクリーンはベッドサイドのスイッチで昇降可能。朝、ベッドに横たわったままスイッチを押せば、緑豊かな景色が徐々に現れる。障子を通してふんわりと広がる朝日も心地よい

ゲストを快眠に導く「ガイドレールタイプ」のロールスクリーンは、左右のガイドレールに生地を挿通させるなど、徹底した光漏れ対策を施している

京都市街を一望できる「グランドセレニティ・ツイン」。薄暮の迫る古都・京都の優美な佇まいを堪能できる
※この記事は、「月刊ホテルレストラン」第2巻2号に掲載された原稿を再構成したものです。