
ブラインドで暮らしやすさをプラス
窓で自然とつながる住まい
「心地良い家をつくる上で窓は重要」と話す建築家の高橋正彦さん。光と風、そして景色が暮らしに溶け込む住まいを数多く手がけています。
今回は高橋さんのご自宅にお伺いし、こだわりの窓と窓まわりアイテムを見せていただきました。
中と外の境界線をできるだけ少なくした住まい

自然豊かで数多くの神社仏閣を有す神奈川県鎌倉市。江の島と富士山を臨む腰越海岸は、波が穏やかで、夏になるとたくさんの海水浴客が訪れます。
波の揺らめきを眺めながら海沿いを通り、坂を登った先に建築家の高橋正彦さんのご自宅があります。
「家族と常にコミュニケーションが取れる家にしたかった」という高橋さん。間取りは壁を必要最低限に抑えた1LDKで、どこにいても家族の気配が感じられます。
元々は都内にお住まいでしたが、鎌倉エリアでの仕事が多かったこともあり、娘さんが小学校に上がるのを機に拠点を移しました。
高橋さんは恵まれた自然環境を暮らしに取り込むことに注力したと言います。
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「中と外の境界線をできるだけ少なくしたかったんです。空や海の青さ、風と光をいかに室内に取り入れるかを考えました。とくに、海からの風が強い場所なので、風をどのように入れて抜くかが課題でしたね。
この家では、南面の低い位置に大きな開口部と、北側の高い位置に小さな開口部を設けて、効率良く風が抜けるように工夫しました。トップライト(天窓)は開閉式にして、夏の暑い空気を外に逃しています」 -
おおらかで笑顔がチャーミングな建築家の高橋正彦さん
海に向かって大きく切り取られたハイサイドライトを介し、青い空と燦燦とした光が室内へ導かれます。寝室とリビングの窓を開けると、ほんのりと海の香りがする爽やかな風が家中を通り抜け、まるで外で過ごしているかのような心地良さを体感できます。
外の雰囲気が感じられる水まわりに

バスルームは、外からの視線を遮りつつ、光がたっぷりと降り注ぐ癒しの空間です。サーファーでもある高橋さんは、外から直接出入りができる大きい窓をしつらえました。
窓を開けて光や風を感じながらの湯浴みは、露天風呂に入っているかのような開放感に浸れます。窓枠は木製を選び、特別感を演出。ブラインドはタイルと同じホワイトにしてなじませています。
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白を基調にしたダイニングキッチン。空間の中心にあり、家族が自然と集まってくる
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キッチンはリビングよりも1段下げて、料理をする人とダイニングテーブルに座る人の目線の高さを揃えてコミュニケーションを取りやすくしています。調理台と造作のダイニングテーブルは斜めに配置し、リビング全体を見渡せるようにしました。
キッチンの窓には、スラット(はね)にパンチング加工が施されたよこ型ブラインドがあり、小さい孔から入る細やかな光がキッチンのワークトップをふんわりと照らしています。閉めていながらも外の雰囲気が伝わります。
「外とのつながりを残しつつ、プライバシーが保たれるところが気に入っています。閉じたときの光の入り方が独特でおもしろいですよね。ユニークなブラインドだと思います」
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道路に面しているキッチンの窓。視線をカットしつつも、外の様子がうかがえる
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キッチンの勝手口にも同じブラインドを設置。愛猫のBONZOくんがごはん待ち中
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ブラインドの色の選定にも高橋さんのこだわりが。家電や水栓、スイッチプレート、ドアノブなど生活に必要だけれど、あまり目立たせたくないものはシルバーに統一しています。それらに合わせて、機能を重視した窓にはシルバーのブラインドを採用しました。
「壁と同じ白にしても良いのですが、人とブラインドの距離が近い場所では、壁に似た色を選んでしまうと違いが際立ってしまいます。無理に存在を消さないで、他の設備と色を合わせて統一させる方が美しく見えますよ」 -
ドアノブやスイッチプレートなどの住宅設備はシルバーで統一し、目立ちにくくしている
バーチカルブラインドが絶景を引き立てる

リビングには大開口の腰窓があり、木枠のサッシが景色をフレーミングしています。窓にはバーチカルブラインドが配され、太陽光を優しく遮ります。
「横に広い窓で、周囲の壁も横方向に目地が入った意匠のため、通常のブラインドだと少しうるさいかなと。バーチカルブラインドなら、ルーバー(はね)の幅が大きくすっきりして見えますし、縦の線もきれいそうだと思い選定しました。縦の回転軸で動くので、太陽の向きに合わせて光をコントロールしやすいです。ルーバーの角度を変えれば、光を遮りつつ景色が楽しめます」
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日中はバーチカルブラインドを全開にして、目一杯景色を楽しめる
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真夏ははねの角度を調節して強い日差しを遮りながらも、外をやんわりと感じる
景色を余すことなく楽しむべく、全開時にたたみ代(ルーバーの溜まり)を開口部の横に逃がしました。また、「連窓仕様」にして、まるで1台のバーチカルブラインドのように見せています。
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たたみ代が壁部分に納まる寸法を算出。全開時でも開口部を塞がずに済む
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「連窓仕様」ならヘッドレールの連結部もルーバーが重なり、閉じた時に隙間ができない
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普段から窓の見え方や仕様にこだわって設計している髙橋さん。
「景色を見たり、光を入れたり、風を入れたり……。窓にはいろいろな役割があります。たとえば、2階には窓が3つ並んでいますが、拭き抜け部分は景色を楽しむ窓だからFIXに。隣の2つは風を入れる窓なので、引き違いにしています。
ひとつひとつ何のための窓かを考えていますね。あとは外から見て意匠的に問題ないかを確認しながら窓の大きや仕様、位置を決めています」 -
天井はツヤのある塗装仕上げにしたことで、光を反射し空間全体が明るく見える
昔の日本家屋がヒントに

リビングの掃き出し窓には、バーチカルブラインドと経木のロールスクリーンという珍しい使い方をされています。海風が強いこの地域だからこそ生まれた組み合わせです。
「設計時はバーチカルブラインドだけで考えていましたが、もっと庭の景色を楽しみたいなと。でも、全開にしてしまうと隣からの視線も遮りたい。じゃあ、どうするかと考えた時に、昔の日本家屋の縁側にかけていたすだれがヒントになり、この組み合わせを思いつきました」
ウッドデッキ部分にすだれを設置しようとしたものの、風で煽られ機能しないため、窓枠内側に経木のロールスクリーンを取り付けるアイデアが生まれました。
日中はバーチカルブラインドを全開で経木を半分下げて、夕方はバーチカルブラインドを外が見える程度に閉じて、電気をつけ始めたら完全に閉めてと、1日に3度見え方を調節しています。
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外からの視線をカットしつつ、眺望を叶える経木。BONZOくんが外をパトロールする際にも役立つ
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室内に設置するため、経木が雨風にさらされず傷みにくい
「竣工当初は周囲に何もありませんでしたが、少しずつ家が建ち、近隣からの視線が気になりはじめたんです。だからといって建て直せる訳でも窓の位置を変えられる訳でもありませんよね。そんな時にブラインドで見え方をコントロールして暮らしやすくするのは、とても有効だと思います」
- 高橋正彦さん 「佐賀高橋設計室」主宰。住宅をはじめ、店舗やアトリエも数多く手掛ける。季節の移り変わり、風の向き、光の流れなど自然が感じられる、おおらかで気持ちの良い空間を提案している。
Photo by Akiko Osaki/Written by Naoko Hashiguchi
2024.6.14 公開