外とのつながりを調整する窓まわり
断熱性とやわらかな光が支える平穏な暮らし
密集した住宅街でも、プライバシーを守りながら明るく穏やかな空間を叶えたA邸。
鍵となったのは、暮らしやすさを支える窓まわりの工夫でした。
建築家の村田さんと小山さんが提案したのは、ハニカムスクリーン「レフィーナ」のサーモブロックタイプと、ロールスクリーン「ソフィー」×障子の組み合わせ。
外との距離をとりつつも、光と温熱環境をやさしく整え、心地よさを生み出しています。
今回は、お二人に設計意図や窓まわりアイテムの選定理由、そして窓との向き合い方について伺いました。
外との距離を見直して“いいところ”だけを迎え入れた住まい

お施主さまのご実家をフルリノベーションしたA邸。以前とは家族構成も変わっており、「今の暮らしにフィットした間取りにしたい」というのが最初のリクエストでした。
建物自体も古く、断熱材もほぼ入っていなかったため、断熱性を高める必要がありました。
普段、村田さんと小山さんは緑の見える住まいを提案していますが、今回は住宅街にあり、眺望が望めない立地。そのうえ、お施主さまは眩しい光が苦手だったといいます。
こうした背景もあり、四季の変化に柔軟に対応でき、お施主さまが心地よく暮らせる住環境を目指しました。
たどり着いたのは、“暮らしやすさと温熱環境を整えた住まい”。窓まわりを工夫して、雑多な景色や強い陽射しを遮り、明るさと温もりだけを室内に迎え入れます。
暑さと寒さから暮らしを守るサーモブロックタイプ

家で過ごす時間が長いお施主さまのために、もっともこだわったのが温熱環境の見直しでした。
家中に断熱材をしっかりと配し、エントランスを含む各部屋にエアコンを完備。どこにいても、快適に過ごせるように整えています。
また、既存の窓がシングルガラスだったため、窓まわりの断熱対策も欠かせませんでした。
窓の断熱性を補うアイテムとして選ばれたのが、ハニカムスクリーン「レフィーナ」のサーモブロックタイプ。A邸では、ほぼすべての窓に採用されています。
ハニカムスクリーンとは、蜂の巣状のセルがたてに連なった立体構造のスクリーンのことです。セルの一つひとつが空気層になり、高い断熱性を発揮します。
そのハニカムスクリーンの性能をより高めたのが、今回採用されたサーモブロックタイプ。スクリーン、ボトムレール、中間バーの端部をコの字型にカットし、窓枠に固定したL型のフレームに通すことで、通常生まれる隙間を最小限に抑えた仕様です。
さらに、本体の上下にも断熱シールドを搭載し、外からの熱気や冷気の侵入をカット。エアコンで整えた心地よい空気も外へ逃しにくくなります。
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「自宅でもサーモブロックタイプを使っていて、断熱効果の高さを日々実感しています」と小山さん
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サーモブロックタイプは、空気の流出入だけではなく、窓枠との間からの光漏れも軽減できる
「窓から逃げる熱損失はかなり大きいものの、できる手立てといえば、内窓の設置かペアガラスへの変更くらいしかありません。しかも、それらは意匠的に優れているとは言い難いです。
その点、ハニカムスクリーンは断熱性能を向上させつつ、インテリアの一部にもなるところがいいですね」と村田さん。
お施主さまも「サーモブロックタイプを取り付けてから、隙間から感じる暑さや寒さが気にならなくなりました」と微笑みます。
眩しさを抑えて光を導く、ロールスクリーンと障子の組み合わせ

リビングの大開口窓には、お施主さまのご希望で障子をしつらえました。空間が閉鎖的にならないよう、上部に型板ガラスを組み合わせて光を室内へ導きます。その手前には遮熱生地のロールスクリーンを設置しました。
「障子は光を拡散するので、晴れた日は眩しい場合があります。ロールスクリーンがあれば光量を調節できますし、窓まわりに可変性が生まれると思い提案しました」と村田さん。
天井にはロールスクリーンの存在を隠せるブラインドボックスをつくりました。
しかし、A邸では構造上、天井の深さがあまり取れなかったこともあり、きれいに納まるアイテムを探すのに苦労したそう。
ようやく見つけたのが、ロールスクリーン「ソフィー」のミニマルタイプでした。
ミニマルタイプは、ブレード状のウエイトバー(下部の部品)をスクリーンでくるんだ仕様です。標準タイプよりもコンパクトに納まるため、ロールスクリーンの存在感を隠したい場所に適しています。
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浅いブラインドボックスにもすっきり納まる、ロールスクリーン「ソフィー」のミニマルタイプ
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ロールスクリーンは冬の陽射し対策として重宝しているそう。普段は巻き上げておくことで、窓まわりが洗練して見える
ロールスクリーンと障子は意外に思える組み合わせですが、村田さんにとっては馴染み深いものだといいます。
「私の事務所でも、夏はすだれを組み込んだ簾戸(すど)、冬は障子、中間期はロールスクリーンと、季節に合わせて窓まわりを使い分けています。ロールスクリーンと障子は、私にとって自然で心地よい組み合わせなんです」
住まい手に寄り添い、暮らしを豊かにする窓まわりの設計

外とのつながりを意識し、建物だけでなく敷地全体をデザインしている村田さんと小山さん。窓まわりの設計にも強いこだわりを持っています。
「なるべくノイズのない設計にしたいと思っています。余計な要素をそぎ落とし、シンプルに整えることで、窓が外と室内を自然につなぐ存在になります。
とくにリノベーションではどうしても要素が増えがちですが、こちらのお宅では雑音を抑え、外の気配がやわらかく入るように意識しました」と小山さん。
続いて村田さんも話します。
「窓まわりはなるべくシンプルにつくりたいと思っています。たとえば、引き違い窓があって、大開口で開くシーンも魅力的ですが、常時そういった暮らしはしませんよね。中央に大きなフィックス窓、両脇に出入りできる窓を配置など、日常の風景が美しく切り取れる設計を心がけています」
お二人が設計するうえで大切にしているのは、住まい手がストレスを感じにくい環境にすること。そのためにも窓まわりアイテムが必要だと話します。
「私たちは緑や空といった自然と接した住まいが、暮らしを豊かにすると考えています。外との関係性を持つには、窓は欠かせない存在です。けれども、それだけでは暮らしは成立しません。外とのつながりを楽しみながらも、障子や窓まわりアイテムで温熱環境を整えることが大切だと思っています」
外との距離や住環境を暮らしに合わせて丁寧に整えていく。
心地よさや豊かさは、余分なものをそっと遠ざけて、やさしい光とぬくもりをすくいとる中で、生まれるのかもしれません。
- 「村田淳建築研究室」 村田淳さん・小山紗也加さん 「緑と暮らす」を軸に、敷地の規模を問わず緑を楽しむ住宅を数多く手がける設計事務所。住まい手の暮らしを丁寧に読み解き、住まい心地も兼ね備えた家づくりを提案している。





2025.12.19 公開